グリオーマ
頻度
神経膠腫(グリオーマ)とは脳を構成する細胞の中で、神経膠細胞(グリア細胞)と呼ばれる細胞からできる腫瘍の総称です。脳に発生する腫瘍の中でもグリオーマの頻度は高く、全脳腫瘍中の約1/3を占めます。
分類
原発性脳腫瘍は腫瘍の形態学、細胞学、分子遺伝学、免疫組織学的特徴を併せて評価するWHO分類と呼ばれる分類法が広く普及し、治療手段の選択と成績を表す指標となっています。
2016年にWHO分類の改訂が行われ、腫瘍の発生にかかわる酵素の異常に関連する遺伝子IDH1/2と、主に乏突起膠腫に関連する1番19番染色体の異常(1p19q LOH)をもとに新しい分類が提唱されました。その後2021年にさらなる改訂がおこなわれ、悪性度にはおおきな変更は加えず、分子分類に従っていくつかの亜型に分類されました。
神経膠腫の場合、予後の良好な方から不良の方へグレード1-4に分類されます。 グレード1は小児発生が多いのに比べ、成人ではグレード2、3、4の発生が主であり、グレードが上がるほど脳内に浸潤性に発育する傾向があります。
これまでの分類
2016年までのWHO分類では、グレード2,3神経膠腫を細胞の特徴をもとに3つに分類していました。
1)星細胞腫系(星細胞腫astrocytoma 以下A、退形成性星細胞腫anaplastic astrocytoma 以下AA)
2)乏突起膠細胞系(乏突起膠腫oligodendroglioma 以下O、退形成性乏突起膠腫 anaplastic oligoastrocytoma 以下AO)
3)混合性乏突起星細胞腫mixed oligoastrocytoma以下OA、退形成性乏突起星細胞腫anaplastic oligoastrocytoma以下AOA
新分類
2021年に、さらに新しい分類が提唱され、病理診断に分子診断の所見に基づき、以下のように細分化されました。
グリオーマをびまん性(diffuse)タイプと限局性(circumscribed)タイプに分類
びまん性タイプを成人型と小児型に分類
成人型のびまん性タイプをIDH遺伝子変異を基に以下の3型のみに分類
星細胞腫 Astrocytoma, IDH-mutant
乏突起膠腫 Oligodendroglioma, IDH-mutant and 1p/19q codeleted
膠芽腫 Glioblastoma, IDH-wildtype
神経膠腫のグレードとは?
腫瘍の塊を構成する細胞の種類や成長の速度から、良性から悪性まで4つの段階に区切ったものです。
グレード1:小児に多く発生する、増殖能力の低い腫瘍。腫瘍自身の成長は緩やかで、経過観察されることも多い。ときにてんかん発作の原因となることがあり、外科的切除のみによって治癒が可能。
グレード2:浸潤性の性質を持ち、増殖能力が低いにもかかわらず、しばしば再発する腫瘍。一部のグレード2の腫瘍は、より高いグレードの腫瘍へと変異することもある。組織診断や遺伝子診断に応じて、手術、放射線、化学療法などが選択される。5年生存率は70%以上と報告されています。
グレード3:核異型や活発な核分裂活性など、組織学的に悪性所見を示す腫瘍。5年生存率は50%よりも低いと報告されています。手術とともに放射線化学療法が選択される。
グレード4:組織学的に極めて悪性で、核分裂活性が高く、壊死を起こしやすい腫瘍であり、急速に増大し浸潤や播種を起こし易いため、5年生存率は10%未満と報告されています。
症状は?
頭痛・片麻痺・失語・意識障害・痙攣発作など腫瘍が発生する部位に応じた症状が見られます。グレード1,2は症状がゆっくり進行しますが、グレード3,4の悪性度の高い腫瘍では症状が急速に進行します。神経膠腫の10人に1人の割合で脳内出血を伴うために脳卒中との鑑別が難しい場合があります、脳ドックなどで偶然見つかることもあります。脳は前頭葉・側頭葉・頭頂葉・後頭葉・脳幹・小脳など、部位によって様々な機能を持っていますので、脳腫瘍が頭蓋内のどこに発生するかによって様々な症状をおこします。
グレードごとの治療は?
グレード2
この腫瘍は比較的ゆっくり成長する腫瘍であるために、条件に応じて治療法が変化します。過去、グレード4と比較して5年生存率70%以上であることから、‘良性’と定義された時代もありますが、10年生存するのは半数程度、20年生存できるのは全体の1/5程度と、他の体の癌と比較しても決して‘良性’とは言えない腫瘍です。
現在の我々の治療方針は、40歳未満かつ手術で9割以上の摘出が達成された場合、何もせずに経過観察がまず行われます。これら条件を満たさない場合には遺伝子の変異を考慮して放射線単独、化学療法単独、放射線+化学療法のいずれかが選択されます。腫瘍が小さい場合や完全に摘出された場合でも必ず定期的にMRIを行い経過観察することが必要です。
グレード3
一般的には予後不良な腫瘍で5年生存率は50%よりも低いといわれています。治療方法もグレード4と同じく放射線治療と化学療法が併用されます。ただし、遺伝子の異常(1番19番の遺伝子)を伴う場合にはグレード2と同等な成績にあることもわかってきました。放射線治療とともに行われる化学療法では、ACNU(ニドラン)とTMZ(テモダール)という二種類の抗がん剤が選択できます。どちらがよい有効かを調べるために臨床試験が行われています。この腫瘍では手術による摘出率が治療成績を改善する可能性があるため、合併症状をださないように気をつけながら最大限の摘出が行われる傾向にあります。
グレード4
神経膠腫の中でも進行が早く最も悪性度が高い腫瘍で膠芽腫(グリオブラストーマ)と呼ばれます。体にできる癌の中でも進行の早い膵臓癌などと同じく5年生存率は10%未満と非常に悪性度の高い腫瘍です。
手術により摘出された腫瘍組織から正確な診断をつけ、放射線治療、化学療法など最適な治療方法を選択することが必要です。また、新しい治療方法を開発するための臨床試験も積極的に行われています。放射線療法には、標準的な治療方法のほかにもいくつか違った照射方法があり、治療のタイミングや条件によって選択できるものもあります。十分な経験の蓄積には至っていないものもあるので、どのようなメリット、デメリットがあるのか相談することが必要です。化学療法も同様で標準的な治療方法以外に、新しい薬剤や投与方法が開発され、臨床試験が積極的に行われています。